直筆で読む「坊っちやん」
太宰治の「人間失格」に続いて、夏目漱石「坊っちゃん」の直筆本をゲットしました。まず帯が面白い。「漱石先生『漢字検定』不合格ぞなもし!」とあります(笑) このコピーが表すように、大文豪・夏目漱石の原稿にも誤字・脱字があちらこちらに見られるのです。
太宰の原稿は、現代仮名遣いで、一字一字丁寧に書かれており、私にもスラスラと気持ちよく読むことができました。活字で読むのとは違う、直筆ならではの生々しさがあり、物語が迫って来るように身近に感じられました。しかし漱石の原稿はそういうわけにはいきません。まず、仮名遣いが旧仮名遣いだし、送り仮名の習慣が現代と異なっていたり、副詞や接続詞が漢字で書かれていたりと、現代人の私には、とてもに読みにくい。漱石の筆跡は、一見とても丁寧に書かれているように見えるんですが、漱石独特の崩し字などが頻繁に使われており、これもかなり曲者です。
こういった事情に配慮してか、変体仮名や漢字の崩し字の早見表や解説が本編に入る前に用意されています。ここで当時の日本語のリテラシーを多少なりとも身につければ、なんとか躓きながらも読みすすめていくことはできると思いますが、それでも正直かなりしんどいでしょう。
自力で読み解くのが困難なので、私はもっぱら秋山豊さんの解説を頼りに楽しんでいます。そのなかで興味を持ったのが、「顔」と「面」という字の使い分け。坊っちゃんが学校の規則の不満を山嵐にこぼす場面で「山嵐はさうさアハハハハと笑ったが、あとから真面になって、君あまり学校の不平を云うと、いかんぜ」という文章があります。この文中の”真面”は出版の際”真面目”と直され、それ以降ずうっとそのまま”真面目”のまま人々に読まれてきました。
しかし秋元さんは、漱石は”真顔”と書くところをわざわざ”真面”と書いて「まがお」と読ませたかったのではないかと推測しているのです。確かに作品中には”顔”という文字と”面”という文字が漱石なりのこだわりで使い分けられているように思われます。山嵐の韋駄天に似ているその「かお」は”顔”よりも”面”の字のほうが相応しい。漱石はそう考えていたのではないかと、秋元さんは言っているのです。面白いですねえ。こういうことに考え及ぶことができるのも直筆原稿の魅力の一つでしょう。
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