直筆で読む「人間失格」
今年は太宰治生誕100周年。ラジオやテレビの特集、太宰ゆかりの地を巡るパックツアーなど、いろいろなところで太宰治の名前を目に耳にします。そして私が本屋で見つけたのがこちら。集英社新書ヴィジュアル版・直筆で読む「人間失格」。
太宰の代表作「人間失格」の直筆原稿412枚が全て写真で収められているという、ファンなら垂涎ものの一冊。太宰の死後、遺族の手で彼が愛用していた着物の生地を使い表装された和綴じ本。その原稿が寄贈されている日本近代文学館の協力によって、綴じられていた糸を一旦取りほどき、全てのページを撮影することに成功しました。
太宰の原稿は一字一字丁寧に書かれていて、とても読みやすいです。しかし文字の書き直しや網がけはページの至るところに見られ、太宰が推敲を繰り返した痕跡が見てとれます。小さな修正箇所ひとつとっても、作者のこだわりや、文章との戦いの傷跡が生々しく感じられます。
なんだかこの手書き原稿を読んでいると、あたかも作品の主人公・葉蔵の手記を、今まさに自分が手にして読んでいるような、なんとも不思議な錯覚に陥ります。文庫本で何度も読んだ作品ですけど、こうやって読んでみると、また違った感慨があります。作者からしたら気分のいいものじゃないかもしれませんがご勘弁ください。
考えてみれば、パソコンやワープロが普及した現代において、原稿用紙と万年筆を前にして、己のイメージと戦う作家っていうのはほとんどいないんでしょうね。書いては消し、書いては消し、挙句に原稿用紙ごと丸めて放る、というような昭和の時代まで続いてきた伝統的な作家の創作方法というのは、この2,30年であっさり失われてしまって、これから先の未来においては、こういう憧れの作家の生原稿に触れる喜びの瞬間っていうのは、完全にないでしょうね。さみしいものです。
ちなみに、この「人間失格」は直筆シリーズの第2弾で、第1弾は漱石の「坊ちゃん」だそうです。これも近いうちにゲットします。漱石の原稿用紙はどんな風に汚れているんだろう・・・
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