そばや大古久で「倫敦塔」を読む
まだ本格的な夏じゃないので、日がカンカンというわけでもない。けどなんだか体が熱くって、だるいような気持ちがして、食欲が沸かない。ああ、昼何食べようかなと、ぶらぶら歩きながら考えていました。手には岩波文庫の倫敦塔。できれば食後にこれをゆっくり読みたいななんて思いながら。
なんか喉通りがよくって、爽やかなもの、と考えて思い浮かんだのが、お蕎麦。阿佐ヶ谷の蕎麦屋でよく行くのは、駅北口を右手に入った細い通り沿いにある大古久さん。どら焼きで有名なうさぎやの斜向いの場所です。歴史のありそうな店構えで、昼時はいつも近所の常連さんで賑わっています。年末になれば時間を問わず、ずうっと満席の地元では人気の蕎麦屋さんです。
今日の私のチョイスは、当然ざる蕎麦。ついでに冷酒もつけちゃいました。蕎麦を軽快に啜りながら、私は「吾輩は猫である」のなかで、苦沙弥先生を相手に迷亭が蕎麦の食べ方についてウンチクする場面を思い浮かべていました。たしか迷亭は、つるし上げた蕎麦の三分の一をツユに浸して、一息で噛まずに吸い込むのだ、と冗談のような真面目のような調子で語っていました。それを相手にしていた苦沙弥先生が、私はうどんのほうが好きだというと、あれは馬子の食うものだと言い放つのでした。
実際のところは、うどんにしても蕎麦にしても、漱石自身はあまり好んで食べなかったようです。淡白な味のものは好きじゃなくて、胃弱なのに濃厚な味のものばかり食べていたようです。(そんな食生活が祟って胃潰瘍をわずらってしまうわけですが)だとすると、こうして蕎麦屋で漱石なんて読んでいるのも、妙な取り合わせといえば、妙な取り合わせなわけです。それでも自分は冷酒をやりながら倫敦塔の部分をしっかり読み終えて店を出たのでした。
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