永井荷風が愛した洋食屋「アリゾナ・キッチン」
正月に風邪をひいて寝込んでしまったので、ちょっと遅めの初詣に浅草寺へ行ってきました。時期がずれたせいで、予想していたほどの混雑はなく、ほどよい賑わいのなかお参りできました。
なぜ浅草寺なのかというと、ちょっと寄ってみたいお店があったのです。40年間にもおよぶ日記「断腸亭日乗」で知られる作家・永井荷風がひいきにして、毎日のように通っていたという洋食屋「アリゾナ・キッチン」です。永井荷風という人物は浅草の町ととても深い繋がりがあって、浅草界隈を舞台にした小説も多く残されています。アリゾナ・キッチンにも市川の自宅から、毎晩タクシーで通っていたそうです。
断腸亭日乗にも度々アリゾナの名が出てきます。
昭和二十四年七月十二日。晴。午前高梨氏来話。小川氏映画用事にて来話。晩間浅草。仲店東裏通の洋食屋アリゾナにて晩食を喫す。味思ひの外に悪からず値亦廉なり。スープ八拾円シチュー百五拾円。
昭和二十四年七月十四日。晴。晩凉水の如し。浅草アリゾナに夕食を喫す。
昭和二十四年七月十六日。晴。晡下大都劇場楽屋。踊子等とアリゾナにはんす。此夜上野公園に花火あり。
店内は古き良きアメリカのカントリー調のつくりになっていて、木の温かみを感じます。壁には大きな荷風の写真も飾られていました。当時と店のレイアウトは変わっているのかもしれませんが、荷風は決まって窓際の席を指定して座っていたそうです。
メニューはいたってオーソドックスな洋食屋といった感じです。私は荷風がよく注文していたというチキンレバークレオールを頼みました。鶏のレバーを玉ねぎとトマトソースで煮た料理です。レバーの独特の癖のある味がトマトの酸味と合っていて、とても美味しかったです。一緒に頼んだパンがまた美味しかったのですが、後で調べてみたら、浅草で有名なパン屋さんが作っているんだそうです。
今は無き永井荷風。彼が例えば墨東綺譚を執筆していた頃、足繁く通っていた、同じ店の同じ料理をいま自分も食べていると思うと、トマトソースを啜りながらなんだかシンミリとノスタルジーを感じてしまいます。仲見世通りからすこし入ったところにある、落ち着いた大人なお店です。荷風好きな方は一度足を運んでみてはどうでしょう。
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